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留学レポート 世界の大学から
第439号 平成15年3月1日
スクリプス研究所(アメリカ)
農学部 講師 北山 隆

メキシコ国境と接する快適な地 全米で住みたい場所No.1

 私は2002年9月から1年間の予定で、アメリカのサンディエゴにあるスクリプス研究所で在外研究を行っております。専門は有機合成化学です。
 ここサンディエゴはアメリカ西海岸の最南端に位置し、メキシコとの国境にある都市です。緯度は熊本県に相当しますが、真冬でも最高気温が15度程度、最低気温も10度弱までしか下がらず、また真夏も30度を越えることが珍しく、1年を通して快適に生活できる場所です。
 
シャープレス教授ノーベル賞 記念モニュメント横にて
シャープレス教授ノーベル賞 
記念モニュメント横にて
 現在のサンディエゴ市の人口は122万人、サンディエゴ郡は280万人に達し、毎年5万人のペースで人口が増加していますが、ここの環境を考えると分かる気がします。北側にオレンジ郡、ロスアンゼルス郡と続きます。私の留学先であるスクリプス研究所はサンディエゴ市のLa Jolla(ラ・ホヤ)という地域にありますが、La Jollaはアメリカ人が住んでみたい場所のナンバーワンという結果が出ているということを聞いています。
 
 サンディエゴからロスアンゼルスまで車で1.5時間、ラスベガスまで5時間、サンフランシスコまで8時間、そしてメキシコまでは20分程度で行くことが可能です。
 
 サンディエゴをもう少し詳しくご紹介したいと思います。1542年、ポルトガルからロドリゲス・カブリヨが不毛の地、サンディエゴに到達し、この地は最初にサンミゲルと名付けられました。現在、そのカブリヨ像がサンディエゴ市街を見下ろすことのできるロマ岬(Point Loma)に立っています。1602年にスペインのセバスチャン・ビスカイノが上陸し、現在のサンディエゴに地名を変更して現在に至っています。
 
 サンディエゴ発祥当時の様子は、現在オールドタウンに保存されています。その後アメリカ独立の10年程前に、アメリカ占領を目的としてスペイン国王の命令で、伝道師がサンディエゴを出発してサンフランシスコまで21のミッションを建設しました。1867年に資産家アロンソ・エラスタス・ホートンがやって来ましたが、その数年後にサンディエゴは大火に包まれ、そのほとんどが灰と化しました。
 
 ホートンは新しい街を作ろうと海岸沿いの土地を購入していたので、街を再建し現在のダウンタウンが誕生しました。この頃の街並みは、ガスランプクォーターとして残されています。また、ホートンの名は、ホートンプラザという巨大ショッピングセンターとして残されています。
 
 ここLa Jollaの中心に、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)が位置し、多くの企業がその周辺に林立しています。その海岸(太平洋)側にソーク(Salk)研究所やスクリプス海洋学研究所、そして私の所属するスクリプス研究所などがあり、世界的に非常にレベルの高い研究が行われています。ソーク研究所では、ワトソンークリックのDNA二重らせんによって知られているクリックが現役活動中で、その研究所から2002年度にm-RNAの発見者であるブレンナー博士がそれとは異なる仕事内容でノーベル医学・生理学賞を受賞しました。
 
 話は少し戻りまして、スクリプス研究所と太平洋の間にはゴルフ場があり、そこでは毎年PGAツアー公式戦が行われています。昨年はタイガーウッズが来たということで、彼を見るための見物客でこの周辺の道路は大渋滞になったそうです。研究室からは太平洋が一望でき、仕事の合間に眺めてはしばし心を和ませています。視界の規模は少し小さくなりますが、奈良学舎の5階から奈良市街および若草山を眺めている風景とどこか合い通じるものを感じます。

ノーベル賞受賞者が顔をそろえる 充実した研究環境

シャープレス研究室から眺めた風景
シャープレス研究室から眺めた風景 手前はPGAツアー開催ゴルフ場、背後に広がるのは太平洋

 さて、私の所属するスクリプス研究所についてご紹介いたします。スクリプス研究所という名称からもおわかりいただけるように、ここは一般の大学ではありません。むしろ大学院大学といったほうが近いかと思います。学生は博士号を取得する目的で入学し、日本でいう修士課程と博士後期課程を合わせた5年間をここで過ごします。
 
 しかし、この研究所に占める学生の割合は非常に少なく、ポスドクや私のような客員研究員によって主に構成されていますので、研究所内の雰囲気は企業の研究所に近いという方がより正しく伝わるかもしれません。スクリプス研究所の起源は約50年前の病院創設までさかのぼりますので、そこからスタートしたこの研究所は主に生物学的な研究科で占められています。
 
 私の所属する化学科は比較的最近開設された小規模な研究科ですが、世界中から著名な化学者が呼び寄せられて研究室が構成されています。私の所属する研究室のボスであるシャープレス教授もその1人で、不斉合成開発の貢献者として高い評価を受け、2001年度のノーベル化学賞を受賞しており、02年度も化学科教授のビュートリッヒ博士が、蛋白質高次構造のNMR的解析の仕事が認められて同賞を受賞していますので、研究所の雰囲気をお察し頂けるかと思います。
 
 最後に私の研究内容について簡単にご紹介致します。今までの有機合成はエレガントさが先行して様々な手段を駆使して行われてきましたが、有機合成分野も合成するだけの時代から、「いかに簡便に、そしていかに環境負荷を低減させながら合成するか」という時代へと移行しつつあります。
 
 例えば、今まで有機溶媒中で行っていた反応、あるいは有機溶媒を用いなければ反応させることができなかった系を、水中で早い反応速度で反応させ、後処理も水のみで行うことによって生成物を取り出すことが一つの解決方法となり、新しい反応系の確立と触媒の探索が課題となります。さらに重要なことは原料調製です。ある目的のために多大なエネルギーを使って化合物を合成するのではなく、必要な部分は自然界に存在する天然物を大いに利用するというものです。
 
 現在は、天然物としては驚異的な含有率で含まれる生姜成分原料に着目し、独自にそれを利用して研究を進めています。そして次の発展は水環境場の中心である生体系反応への応用です。この反応を酵素系で利用し、リガンド誘導体を酵素活性中心付近で反応させるいわゆるClick Chemistry in situによって、今まで得られなかった真に選択的な酵素阻害剤を構築して、副作用の全く無い次世代の医薬品を開発するという研究も進めています。すでに我々の研究室では、10-15(フェムト)Mという驚異的な低濃度で効果を発現する酵素阻害剤の開発に成功しています。
 
 最後に、このような貴重な体験を行う機会を与えて下さいました近畿大学ならびに関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

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