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留学レポート 世界の大学から
第435号 平成14年8月1日
ヨハン・ヴォルフガンク・ゲーテ大学(ドイツ)
法学部 助教授 神田 宏

  私は現在2002年9月までの予定で、 ヨハン・ヴォルフガンク・ゲーテ大学にて在外研修中です。所属先は法学群(法学部)刑事法学・法哲学研究所のウルフリート・ノイマン教授主宰による講座です。
 ノイマン教授は、刑事帰属論の研究で著名な業績を上げられたほか、法哲学への造詣も深く、近時は特に法学方法論に注力されているご様子であり、そのせいMitarbeiterInnen/Mitarbeiterにも法哲学専攻の方々が名を連ねています。
 滞在中の主な研究対象は原因において自由な行為の法理です。これは平たくいうと酔っぱらいの触法行為を処罰するために編み出された理論ですが、刑法の大原則である(とされる)責任原理との抵触が古くから問題とされており、主にこの部分を今回の研修の主眼に置いています。
 数年前に、ドイツ連邦最高裁判所は特定の種類の犯罪にはこの法理が用いられない、必要でないことを言明し、学説に大きな反響を惹きおこしました――。その後の判例・学説の展開をフォローすることが最大の課題です。 現在は、同法理の帰責構造の日独比較にも関心領域を広げています。
 周知のとおりフランクフルト-アム-マインは外国人比率の高い街で、人口比30%以上を外国人が占めます。また外国人の20%近くをトルコ人が占めています。ゲーテ大学もその例外でなく、至る所で外国人の姿を日々見かけます(外国人学生の比率は18%)。
 しかし、残念ながら日本人はごく少数派で、この刑法・法哲学研究所所属の日本人Mitarbeiterは私1人のようです。アジア発の研究者としてはノイマン先生のもとにコリアとタイワンから1名ずつが籍を置いています(ただし、いずれも法哲学専攻)。ここにいて驚かされるのが学術行事の多さです。ほぼ毎週のように講演会やシンポジウム、コロキウムが開催されています。他学群も数えいれるとおそらく毎日大学のどこかで何かの講演会などがあるのではないでしょうか。
 また著名な社会研究所(フランクフルト学派の総本山)もしばしば公開討論会などを開催しており、これらの講演会には、関心のあるテーマであればできるだけ聴講に出かけるように心がけています(夜に開催されるとワインやビールが振る舞われる!という少々不純な動機もあります)。

金融・文化・学術の街 フランクフルト

 フランクフルトはMainhattanやBankfurtといった別名が示すとおり、金融の街で知られ、ドイチェ・バンクやコメアツバンクなどの高層ビルが林立しています。それと同時にフランクフルトは文化・学術活動にも大変な力を注いでおり、ゲーテ大学への思い入れも非常に強いように見うけられます。ちなみにフランクフルト市のサイトによれば、現在市内にはCollegeと呼ばれるものが8校あるそうです(そのうちシュテアン誌の大学ランキングに掲載された大学は3校)。現在、ゲーテ大学では HEP(Hochschulentwicklungsplan)というプロジェクトが進行中です。紙面の都合でこれを紹介することはできませんが、ホームページや大学新聞でさまざまな目標設定とその実現の方法・進捗状況などが詳しく説明されていますのでご参照ください。
 また、すでに手狭となった現在の本部キャンパス(Campus-Bockenheim)を離れ、1kmほど離れたCampus-Westenへの移転が予定されています。ここは「ドイツ一美しい大学」を目指しているとのことで、実際にのぞいてみると別世界であるかのように感じられます。最近、隣接する地区をヘッセン州とフランクフルト市が協力して買収し、10万m2に及ぶ広大な敷地をもつキャンパスが誕生することになります(理系の別キャンパスを合わせると15万m2の総面積となるそうです)。
 次にゲーテ大学に研修に行かれる方(ただし文系)はおそらくこの緑美しい大学に通われることになるのではないでしょうか(すでに一部の学群が先行移転を済ませています)。

インターネットの功罪 パソコンを捨てて街へ出よう

Campus-Westend
ドイツ一美しい?Campus-Westend。
中央は喫茶ロビーです。
手前の池には残念ながらチョウザメはいません。

 滞在期間中はインターネットにいろいろとお世話になりました。近畿大学との事務連絡は大抵メールで事済みますし、日本の社会情勢はニュース・サイトでほとんど知ることができます。さらに学生が開設している掲示板などを覗けば、その日の授業で某先生が私語に怒ったという情報まで流れてきます。ドイツ情報も同様で、ドイツにいなくては手に入れることのできない情報を探すのが難しいほどです。
 反面、負の側面にも注意しなくてはなりません。あまりに日本からの情報に浸っていると、いつまで経っても日本的なマインドから脱却することができないように感じます。たとえば日系企業の駐在員などの中には新聞・テレビともに日本の衛星版を楽しみ、職場では日本人同僚とチームを組み、日本本社と電子会議などで毎日連絡をとり、ほとんど日本にいるのと変わらない生活をしている人たちがいるようです(したがってドイツ語会話は基本的に不要)。ルーチンワークをこなしていくうえではこれで充分なのかもしれませんが、研究滞在としては失格です。
 そこで、「書」ならぬ「パソコンを捨てて街へ出よう」というスローガンを思いつきました。
 ドイツのこの夏最大のイベントは連邦議会の総選挙であり、そこでの主なテーマの1つに教育改革が挙げられます。先般OECD主催で実施された生徒の学力国際比較(PISA)でドイツはすべての分野で惨澹たる成績を残しました(EU諸国にかぎっても極めて低い位置づけとなりました)。この「PISAのショック」をいかに乗り越えるか、 各党が選挙戦の中心にこれを据えたことは言うまでもありません。

ドイツの教育改革 学力国際比較の衝撃
 
 その後、PISAの分析が進み、CDU/CSU連合の支配する州が総じてSPD州よりも好成績を上げていることが報道されるにつれ、ますますこの傾向が強まっています(「南が北に勝った」とする新聞報道もありました)。教育改革は当然大学にも及んでいます。PISAショックとは直接の関係はないことですが、大学改革は実はここ数年来の政府の関心事であったようです。
 今後の予定としては、ドイツ・アカデミック界の誇りであったHabilitation(教授資格論文)システムを段階的に廃止し、これに替えてJuniorprofessurシステムが導入されます。教授の雇用形態についても、終身雇用を原則としつつも事実上の任期制導入も囁かれているようです。また現在、すでに多くの大学で事実上の授業料が必要となっていますが、これの本格導入あるいは大幅値上げも検討されているようで、学生生活にも大きな影響の出ることが懸念されています。
 もっとも教育・大学は現在、州の管轄事項であるので、連邦レベルで改革が進められても州がこれを無視するような立法に走ることもあって、先行きは不透明のようです。

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