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学術・研究
植物遺伝子が動物で機能−世界初の研究成果−
米科学誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載
Commentary(解説記事)でも紹介 
先端技術総合研究所、生物理工学部らの研究グループ

動物に有用遺伝子導入    未開拓領域多く、国際的優位に

国科学アカデミー紀要(PNAS)

 2002年、ホウレンソウの遺伝子を導入して私たちの体に必要な必須脂肪酸「リノール酸」を自ら作り出せる「ヘルシーピッグ」を作ることに世界で初めて成功したのは、本学先端技術総合研究所の入谷明所長・生物理工学部教授を中心とした研究グループだった。

 植物の遺伝子が動物に導入され、それが正しく機能することを証明した世界初の研究成果は佐伯和弘教授(生物理工学部遺伝子工学科)が研究論文にまとめ、米の科学誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に投稿した。同誌は、「ネイチャー」「サイエンス」と肩を並べる科学誌で、04年4月27日号の優秀論文5本の1つに選ばれ、表紙を飾った。さらに同誌の次々号では、ドイツの研究者Niemann博士によるCommentary(解説記事)が掲載され、植物遺伝子がほ乳動物体内で機能した初めての報告であり、このような遺伝子改変技術による健康によい豚肉が10年以内に市場に現れるのではないかと結んでいる。

佐伯和弘教授
論文を執筆した佐伯和弘教授
北海道大学獣医学部を卒業後、雪印乳業に入社。米国ウイスコンシン大学客員研究員、雪印乳業受精卵移植研究所・主席研究員を経て、平成9年から本学に勤務。農学博士。趣味はプロなみの日曜大工とドライブ。兵庫県出身。

 リノール酸やαリノレン酸などの不飽和脂肪酸は、本来植物や一部の下等動物にしかなく、体に必要な成分でありながら私たちの体内では生産することができない。研究グループでは植物の中に存在するオレイン酸をリノール酸に変える酵素に着目。ホウレンソウの根から、この遺伝子を取り出すことに成功。その遺伝子を受精卵に注入し、世界初の植物遺伝子を組み込み、その遺伝子が機能するブタを誕生させた。

 研究グループでは、さらにリノール酸からαリノレン酸に変える遺伝子を組み込んで、知能の発達や抗がん作用のあると言われるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)を持たせる研究も進めている。  

 「遺伝子組み換え動物」の研究分野は人類の健康に寄与することはもちろん、遺伝子組み換え植物の分野と比べ、未開拓領域が多い。ヒトゲノムの解析が終了し、「ポストゲノム時代」に突入した今、遺伝子そのものがどういう役割を果たすか、いかにそれを利用するかに焦点があたっており、この研究で得られた技術は無限の広がり、可能性を持っている。

 佐伯教授が発表した研究成果は、すでに国際特許として出願されており、遺伝子分野研究で圧倒的に水を開けられている米などに対抗し、日本がビジネスの場においても、国際的な優位性を高めることにもつながっている。

良い研究は良い教育につながる チームワークが実を結ぶ

 この研究は、研究グループの細井美彦教授(遺伝子工学科長)と基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)の村田紀夫教授が温めていたもので、7、8年前からスタートした。これまでに、日本学術振興会の「未来開拓学術研究推進事業」、文部科学省の「21世紀COEプログラム」(継続中)、文部科学省・科学技術振興事業団の「地域結集型共同研究事業(和歌山県)」(継続中)などの研究テーマとしてそれぞれの分野のスペシャリストが参画。本学生物理工学研究科の大学院生も加わり、チームワークで達成したもの。「良い研究は良い教育につながる」と入谷所長は話している。

 「ヘルシーピッグ誕生」のニュースは国内に止まらず、全世界を駆け巡った。入谷所長のもとには、今も「ヘルシーピッグについて知りたい」「産業化に協力したい」などと、連日のように海外からも問い合わせが入る。イギリス・BBCが大きく報道したように世界の豚肉の約20%を消費するヨーロッパでは、成人病に対する予防の観点からもヘルシーピッグへの関心は高い。ハム、ソーセージで有名なドイツの消費量は、日本の3倍を超える。

 また、食生活の欧米化や生活習慣が原因と見られる肥満の問題がクローズアップされる日本でも今や男性の30歳から69歳までの約30%が肥満者(BMI=体重[kg]÷身長[m]の2乗=25以上)というデータ(厚生労働省調べ)もあり、さらに小児の肥満が30年前に比べ割合が3倍、程度もひどくなっているという。

 研究グループでは、遺伝子を組み換えた動物の安全性を検証し、さらにウシなどの家畜にも応用できるよう研究を進める。

研究代表者の入谷明先端技術総合研究所長・生物理工学部教授のコメント 

入谷明
 一般に優れた研究の多くは、かなり突飛な構想のもとにスタートして成功したような課題が多いですが、この研究も、れっきとした植物、ホウレンソウの遺伝子を動物、ブタに導入してその遺伝子が体内で正常に機能したことで、これは世界初の成果であったこと、しかもこの遺伝子の作用で食用動物の脂肪の質を健康によい方向に変化させたことが特筆されるべき優れた成果であったと思います。

 ちょうどプレス発表の頃、文部科学省が公募していた世界レベルの研究教育拠点、21世紀COE拠点に選定されました。2年後にこの成果が世界のトップレベルの科学誌に掲載されたことで、COE研究評価委員会でも高く評価されました。

 評価の高い研究成果は1日にしてならずのとおりで、マウスでの基礎研究に始まって約8年をかけて、10人を超える研究スタッフ、優れた研究設備のもとでなしえた成果であります。現在、食品としての安全性の評価を進めております。欧米、特にヨーロッパでは、食品としての市場供給を切望されています。

(近畿大学大学新聞 第454号 2面 平成17年4月1日発行)
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