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ご卒業、誠におめでとうございます。学部、短大の全課程を無事終了し、きょうのよき日を迎えられた諸君に対し、心よりお祝い申し上げます。また、これまで卒業生諸君を物質面、精神面で支えてこられました保護者の皆様に対しましても、衷心より祝意と敬意を表したいと存じます。
また、きょう、多数のご来賓、保護者の皆様のご臨席をいただき、このように盛大に学位授与式を挙行できますことは、私たち近畿大学教職員一同にとっても、この上ない喜びでございます。この場をおかりいたしまして、厚く御礼申し上げます。
きょう卒業される諸君は、バブル経済がはじけ、我が国がまだ深刻な不況から抜け切れていなかった世紀の転換期に本学に入学されました。そして厳しい経済的環境の中で学業、課外活動に励み、晴れの卒業式を迎えられたわけです。
残念ながら、国民の強い期待にもかかわらず、世間はまだ不況から抜け切っておりません。最近政府は、銀行の不良債権も大幅に減り、株価も回復し、景気も上向いていると主張しております。しかし、その裏にはリストラ、下請けの切り捨て、正社員から契約社員への切りかえ等々、厳しい合理化があり、中小企業の倒産も相変わらず続いております。諸君はこれからこういう厳しい社会に出ていくということを十分認識していただきたいと思います。
近年、政府もメディアも、公営企業の民営化、あるいは規制の緩和、規制の撤廃ということを声高に叫んでいます。確かにこれまで終身雇用制、あるいは護送船団方式など、家父長的・後見的な保護と引き換えに、政府は国民生活を広範囲にわたって規制してまいりました。そのため、国民は過度に国に依存するようになり、徐々に自立心、競争心を失っていきました。このことが日本企業の競争力、ひいては日本社会の活力を失わせてきたことは、紛れもない事実です。
このような閉塞的な状況を劇的に変えていくためには、規制緩和、規制撤廃は避けて通れません。現実に経済の分野でも規制緩和、規制の撤廃が急速に進んでいます。そしてこれが必然的に自由競争を促していることは申すまでもありません。
このような状況の中で社会生活を始めようとする諸君には、近畿大学で得た学識をもとに、謙虚に新しい知識や技術を学び、地道に努力を重ね、チャレンジしていただきたいと思います。
しかし、その際、諸君は高等教育を受けた知識人の一人として、あくまでも社会的妥当性、社会的公正性を価値基準とし、フェアプレーの精神を持って事に当たっていただきたいと思います。
最近、ニッポン放送の株の買収をめぐって、ライブドア対フジ・サンケイグループの熾烈な争いが、連日、メディアで報道されております。当然諸君も関心を持っていることと思います。世論は、年齢にかかわりなく、フジ・サンケイグループを傘下におさめる手段として、ニッポン放送の株を買い集めているライブドアの堀江社長を支持するもの、それからそれを阻止するため、TOBという株の公開買い付けを行ったり、あるいは系列のニッポン放送に新株発行権によって増資を行わせ、それによって自社の株保有を有利にしようとするフジテレビの日枝会長を支持するものとに真っ二つに分かれております。
話題の堀江社長については、弱冠32歳の若さで既存の秩序に果敢に挑戦し、夢を実現しようとしている勇気ある企業家として評価し称賛する声と、一方で法の盲点を突いて強引に自らの野望を遂げようとする野心家と非難する声とに分かれております。その評価は対照的です。諸君はどのように考えているでしょうか。
自由社会では、人々は誰でも、法令に違反しない限り、自分の好きなスタイルで、言いかえれば自分のやりたい方法で暮らしていくことができます。これこそが自由社会のよさといいますか、メリットであろうと思います。もちろん、自由社会だからといって、違法でなければ何をやってもいいというわけではありません。人の行動にも妥当性、公正性という規範がなければなりません。
このように諸君が社会に出て行動する場合、やはり社会的妥当性があるかどうか、あるいは社会的公正の基準に合致しているかどうか、こういった点を判断しながら行動してもらいたいと思います。
ライブドア対フジテレビの争いを左右するニッポン放送の新株発行権の問題は、現在なお司法の判断にゆだねられています。違法か違法でないかは別として、社会的妥当性、公正性の視点からも、その是非を判断してほしいと思います。というのは、これは単にライブドア、フジテレビという企業のトップ争いにとどまらず、ニッポン放送の株主はもちろん、そこで働く従業員、さらには、ニッポン放送を聞く聴取者にもかかわってまいるからであります。
ライブドア対フジサンケイグループのほかに、現在最も社会的な関心を集めている問題として、西武鉄道・コクドグループの悪質な法令違反行為があります。西武王国と言われたこれらの企業群は、衆議院議長まで務めた滋賀県出身の故堤康次郎氏が一代で築いたコンツェルンです。このコンツェルンの創業者の二代目による数々の反社会的な行為が次々と明るみに出たとき、滋賀県のある老地方政治家が、このような不正行為の遠因をつくったと言われている創業者の生き方は、近江商人の処世訓に反していると慨嘆していたことがさる新聞に報道されておりました。
それによりますと、近江商人の処世訓に、「三方よし」という教えがあるというのです。「三方よし」というのは、「売り手によし、買い手によし、世間によし」というもので、いやしくも取引を行うに当たっては、当事者はもちろんのこと、社会にとっても利益となるように心がけなければならないというものです。
15歳で故郷の滋賀県を出て上京し、成功した堤康次郎氏がいわゆる近江商人であるのかないのかは別として、この「三方よし」という処世訓は、我々にとっても心すべき教訓であると思います。先ほど申し上げた社会的妥当性、社会的公正性の要請にも通ずるものがあると考え、ここで披露する次第です。
日本社会はまだ厳しい状況にあります。沈滞ムードから抜け切れていません。しかし、我が国には長年にわたって培われてきた世界屈指の優れた技術力があります。また、近年、国債、公債の増発により国の債務が増加していることは否定できない事実ですが、日本の経済力はまだ健在です。諸君もご承知のように、トップの座は譲り渡したものの、日本は依然として世界最大の開発援助国です。しかも、個人資産額は1,300兆円とも1,400兆円とも言われております。まだまだ日本社会には大きな可能性があります。諸君はその可能性を信じ、これから進もうとする職場において精一杯研鑚に努め、夢を実現してほしいと思います。
最後になりましたが、本年は本学にとって、母体の一つである旧制大阪専門学校創設から数えて80年目に当たります。この間に近畿大学は目覚ましい発展を遂げ、現在は11の学部、1つの専門職大学院を含む12の大学院研究科、17の附置研究所、2つの短期大学を擁する我が国有数の総合大学になりました。そして、質的にも本学はいろいろな分野で大きな貢献をしてまいりました。
近年、近畿大学が挙げました目覚ましい成果の幾つかをご紹介いたしますと、まず、生命科学を専攻する農学部の教員が我が国で初めてクローン牛を誕生させるのに成功しました。また、大学院生物理工学研究科と先端技術総合研究所の研究グループが植物の遺伝子を持つ大型動物をつくり出すのに世界で初めて成功しました。これは具体的に申しますと、ホウレンソウの遺伝子を持った豚を誕生させるというものでした。この研究は、日本の大学を世界有数の研究拠点に育て上げることを目的とした文部科学省の「21世紀COEプログラム」の対象に選定されました。
続いて、水産研究所と大学院農学研究科の研究グループが、将来絶滅が危惧されている高級魚のクロマグロの完全養殖に、これまた世界で初めて成功し、これも文部科学省の21世紀COEプログラムに選定されたことは、既に広く報道されているとおりです。
このほか、理工学部の教員が1秒間に100万枚の写真撮影ができるという驚異的な超高速度ビデオカメラを開発するなど、我々が胸を張って言えるさまざまな画期的成果を近畿大学は生み出しております。
また、学生諸君も、スポーツ、文化的活動などのクラブ活動で近畿大学の名を高めてくれました。特に、昨年のアテネオリンピックに水泳の選手が4人、アーチェリーの選手が5人、また台湾の代表として野球選手が1人、合計10名の近畿大学の卒業生・現役学生が出場し、目覚ましい活躍をしたことは、記憶に新しいところです。
また、同じく昨年、全国学生相撲選手権大会において、本学の選手が個人優勝を遂げ、学生横綱の栄冠に輝いたことも、周知の事実であります。
このように、近畿大学は社会のために活発に活動してまいりましたし、これからも生き生きと躍動していくものと確信しています。諸君はその近畿大学の卒業生であるという誇りと自覚を持って、これからも頑張っていただきたいと思います。諸君の今後のご活躍とご発展を心より念願し、本日の式辞とさせていただきます。
(平成16年度卒業式式辞)
(近畿大学大学新聞 第454号 1面 平成17年4月1日発行)
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