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法科大学院制度の発足に伴い、文部科学省が募集した「法科大学院等専門職大学院形成支援プログラム」に、近畿大学法科大学院(大学院法務研究科法務専攻)が申請した「基礎知識及び学習到達度確認システムの構築」が選定されました(総額約3,000万円/平成16年度から3年間)。本システムは、新しい法曹養成を担う法科大学院での授業を補完するものとして、法科大学院生の学習を支援します。
背 景
昨年4月に開校した法科大学院も、ようやくその初年度を終え、2年目に入りました。法科大学院では、未修者と呼ばれる3年コースの院生と、法科大学院合格後に行われた既修者認定試験によって1年次の履修を省略することを認められた2年コースの院生(既修者)がおりますので、実質的には2年目までのカリキュラムが一通り実施されたことになります。
この間、院生諸君は、24時間利用可能な図書館と自習室で、貸与された各自のノートパソコンと、日本法についてはほぼ網羅的に揃えられたデータベースやTKCの法科大学院教育研究支援システムを利用しながら、早朝から深夜まで予習復習に明け暮れました。私が前期に担当した、1年次対象の「憲法B」(基本的人権に関する基礎的な問題を扱うもの)の授業評価アンケート(全科目について、授業開始から約1か月後と、最終回近くの計2回にわたって実施)によりますと、この科目について毎週4時間以上は予習しているという学生がほとんどでした。1年次前期の履修科目は9科目(すべて必修科目)ですから、いかに院生諸君が必死であるかということがうかがえます。
このような院生諸君を相手に、真剣勝負の双方向・多方向型授業を毎週行うのは、教員にとっても大変なことで、正直申し上げると、昨年度に関しては、授業日以外のほとんどを授業の準備作業に費やしているうち終わってしまったというのが実感です。しかし、おかげで、法科大学院棟の各教室で繰り広げられる授業風景は、これまでの大学における教育の姿を一変させたといえるのではないかと自負しております。法科大学院は、司法制度改革の中核的基盤を担うと同時に、本格的な専門職大学院導入の先陣をつとめ、わが国高等教育改革の先導役たるべきことを期待されていますが、まさにその役割にふさわしいスタートを切りました。
法科大学院は、これまでの法曹養成のあり方を「点からプロセスへ」大きく変えようとすると同時に、法曹のバックグラウンドを多様化しようとするものです。本法科大学院では、司法制度改革審議会の意見書に忠実に「開放性・公平性・多様性」を基本原則とする入学試験を実施することにより、法学部以外の学部の出身者や社会人経験を有する院生を多数受け入れるべく努めています。この結果、初年度入学者中、法学部以外の出身者は4割以上、社会人経験者は6割以上となり、平成17年度入学者についても、法学部以外の出身者・社会人経験者の割合ともに3割以上となっています(平成16年度入試では、卒業・修了後3年以上の者をすべて社会人として扱いましたが、平成17年度入試では企業勤務や公務員の経験等を有する者に限定しました)。このように多様な学生集団を擁することは、「国民の社会生活上の医師」としての法曹を養成する上で、好適な環境を提供するものと考えています。
課題
しかしながら、多様な背景を有する院生諸君に対し、ハードな授業を提供することは、とくに法学部以外の出身者にとっては、相当な負担になっているようです。制度の移行期にあって、未修者の中にも相当数の法学部出身者がいることが、さらにこの問題を深刻にしているところがあります。教員側としては、授業のレベルは落とせないが、「『純粋』未修者」(未修者であって法学部以外の学部の出身者である者を院内でこう呼び習わしております)がついてこれなくなっては元も子もないというジレンマを抱えることになります。
むろん、法科大学院としては、入学前から基本的な図書を読書課題として指定したり、開講前から補習を実施するとともに、オフィスアワー・学習指導教員(若手の弁護士に依頼)・ティーチングアシスタント(本年度後期から始動)・担任教員制により、きめ細かなフォローに努め、多様なバックグラウンドを有する入学者がスムーズに法科大学院での学習に適応できるよう、対策をとってきました。
とはいうものの、限られた授業時間で、しかも双方向・多方向方式で行われる授業での対応には一定の限界があります。法科大学院で典型的に採用されているいわゆるソクラティック・メソッド方式の授業は、元来アメリカのロー・スクールで多く用いられている教育手法で、判例を素材として、事実認定や法解釈について、その理解を深めるための問いを教師が次々と繰り出し、学生に考えさせる中で、法律家らしく考える("think
like a lawyer" )能力を涵養しようとするものです。この方法での授業は、極めて意義深いもので、院生の理解は深まり、法曹としての能力の向上にも役立っていると考えられるのですが、授業で取り扱える問題・分野が、重要性の高いものや広がりのあるテーマに偏ってしまう傾向があります。法律学には、そのような授業では大きくは取りあげられないが、当然に理解しておかなければならない事項というのがたくさんあります。このような基礎的な知識をすべて伝え、かつ、その習得を確認するという仕組みが必要です。
また、院生諸君の心理的な負担に対応するという必要もあります。新しい司法試験については、すでに昨年、司法試験委員会がサンプル問題を公表し、本法科大学院でも検討会を開催して分析につとめているところですが、その最大の特徴は、相当量にのぼる生の資料を自分で読み解くという能力が求められている点にあります。このことから、法科大学院における授業に際しても、予習課題として、膨大な判例や論文の消化が要求されるのですが、ともすれば学生はこの資料の海に溺れてしまい、なにが最低限学習しなければならない重要な点であるかを見失う危険があります。むろん、このようなことは、3年間の学習を通じて時間をかけて、学生一人一人が自力で対応していくしかないのでありますが、「純粋未修者」が一定数在籍していることを考えると、初年度から、適切な誘導や目標の提示をすることも必要であるといえます。法科大学院の発足に伴い、法科大学院協会の主催によるもののほか、様々な教育に関するシンポジウムや研究会が開催されていますが、これらの課題は、いずれの法科大学院にも多かれ少なかれ共通するところがあるように思われます。
今回選定された「基礎知識及び学習到達度確認システムの構築」は、以上の課題に答えるべく、院生が、学内LANおよび自宅からのアクセスを用いて、任意の時間に、PC上で基礎的な知識と授業での学習到達度の確認を行いうるシステムを開発しようとするものです(図参照≫)。今回の「法科大学院等専門職大学院形成支援プログラム」には、「教育高度化推進プログラム」と「実践的教育推進プログラム」とがあり、これは後者に該当します。ちなみに、全体では申請の半数程度が選定され、単独でのプロジェクトが認められた法科大学院は、近畿地区では国公立3大学(京都・大阪・大阪市立)と私立5大学(関関同立と本学)となっています。
システムの概要と導入状況
本システムでは、素材となる問題は、法科大学院の研究者教員ならびに実務家教員および学習指導教員が、協力して作成します。出題も、研究室や自宅のPCから行うことができます。既成の問題を用いるのではなく、実際に授業を担当する教員が主体となって出題することで、院生に学習課題を明確に示すとともに、授業との連携・フィードバックが確保されることになります。したがって、出題範囲については、憲法や民法といった法律基本科目に限定せず、たとえば民事裁判や検察実務といった実務関連科目等についても幅広く含めるものとされています。学生の成績データは個人別に管理され、学生が自己分析を行いうるようにするとともに、教員側でも学生の学習の進展度を個別に把握できるように配慮がなされます。学生全体および個々の学生について分析を行い、とくに理解の困難な分野等を把握することによって、重点的な学習支援が可能となります。
また、本システムと連携して、夏・冬・春の休業期間毎に「基礎知識補強講座」として、模擬的な試験を行い、講評会を開催し、基礎的な知識の定着をはかります。
この基礎知識補強講座は、すでに本プログラム選定前の昨年度夏期休業期間中から開始されており、冬期についても4日間に渡って実施されました。冬期までの段階では、集計や分析は手作業で行っていましたが、それでも、学生の現状、授業のテーマ選択の適否などについて、教員が情報を共有化するという点で、一定の効用を発揮しました。昨年度末までには、基本的なハードとソフトの設置・導入が完了し、春期の講座は、システムの試用を兼ねて、ネットワーク上で実施しました。平成17年度には問題を蓄積しつつ、学内からの利用について態勢を確立し、平成18年度には学外からの接続についても整備を進める予定です。
誕生したばかりの法科大学院は、試行錯誤を繰り返しつつも、少人数教育の利点を活かし、教員と学生が一体となって、我が国の司法制度の改革の礎となるべく邁進しております。本システムの構築は、そのための足腰を固める、基盤整備の一環と位置づけることができましょう。この場をお借りして、本プログラムの推進にご助力をいただきました学内外のみなさまに御礼申し上げるとともに、今後ともご協力をいただきますようお願い申し上げます。
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