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講演会
ノーベル賞受賞John B. Fenn教授講演会
「好奇心を持って、学べ」<寄稿>
理工学部 教授 木村 隆良
 
John B. Fenn教授
 7月5日、EキャンパスB館403号教室においてノーベル化学賞を受賞されたJohn B. Fenn教授(米国、YELE大学名誉教授、バージニア・コモンウエルルス大学教授、87歳)の講演会が開催された。
 
 約250名の学生・教職員が“Electrospray Ionization : Wings for Elephants Molecules ロケットの推力研究から遺伝子のイオン化による病気診断まで”の御講演を拝聴した。
 Fenn教授は“生体高分子の質量分析法のための穏和な脱着イオン化法”を開発し、2002年度「生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発」に対し、田中耕一氏(MS)およびK.Wuthrich博士(NMR)とともにノーベル化学賞を受賞された。
 
 Fenn教授の開発したエレクトロスプレーイオン化法(ESI, electrospray ionization) は分子量10万程度の巨大分子を壊すことなく気体状態にすることができるので試料の中のタンパク質などを簡便に同定し、さらにタンパク質分子の構造まで決めることができる。
 
 現在バイオメディカルな分野で広く用いられているこの画期的な方法は、強い電界の形成によるエレクトロスプレー現象、微細な帯電液滴からの溶媒分子の蒸発過程、ノズルを介して急激に気体を膨張させるときの気体の噴流とその中での凝縮といった基礎的な化学と物理に対するFenn教授の深い科学的造詣の成果で、化学と流体力学を融合し、分子線化学を創造されたFenn教授の確固とした科学的な基盤をもとに確立された。

87歳科学者の気迫

 細胞中でのタンパク質機能の理解や新薬の開発などに革命をもたらし、食品検査や早期病理診断などの分野での応用がなされている。Fenn教授はノーベル賞受賞後初めての来日で、長旅の疲れのご様子で講演会場に入室されましたが、ひとたび講演のマイクを持たれるとまるで別人のごとく堰を切ったように聴衆を魅了された。
 
 まず緊張を解くためのジョークから始まり、なぜこの方法を開発できたのかについて、どのように大学を選んだのか、どのような人との出会いが左右して開発できたのかなどをESIの原理を含めながら、最初測定したスペクトルでの感動、問題点の克服などの過程について順を追って、図でわかりやすく説明された。
 
 現在公表されている引用論文だけでも1990年から毎年約200編増え、とくにESIの利用が公表されていない企業での利用頻度が高く、近年はエイズ因子やガン因子、マラリヤの早期発見に力が発揮されつつあることを紹介された。またこのESIの開発に当初から深くかかわった7名の内S.Shen博士、山下雅道教授、能美隆博士も同席いただき、S.Shen博士にはFenn教授の講演に先立って“The Technique and Application of Trace Amount Detection in ppt Level by Electrospray Time-of-Flight Mass Spectrometry”の題で最新の話題を紹介いただいた。
 
 講演後に数名の学生がFenn教授に質問、この道に進んだきっかけや人生観から教育論にいたる非常に感銘の深い答弁を頂いた。まだまだ質問したそうな学生がうずうずしているのも見えたが時間の関係で何人かの他の質問を中止しなければならないことは残念であった。

 講演会が終了した後も数名の学部学生が質問にきて、いろいろお話を伺うなかで、化学の最も大切なことは“Curiosityだとうかがい、深い感銘を受けて、さらにノーベル賞の受賞時の写真とともにFenn教授のサインをいただくなど、気さくに多くの若い人と接点を持っていただき、喜びと感動を若い人に残された。
 Fenn先生が学生に“化学を楽しもう“,幸運な事故を理解できる基礎を付けよう”、“好奇心を大切にしなさい”と語りかけ、さらに語学力がなぜ必要なのか、英語を勉強しなければならないのかを身をもって体験し、英語の勉強だけではなく化学をさらに深く学ぼうという何にも勝るモチベーションを多くの若い人の心に育ててくれました。聴講した学生さんたちはこのすばらしい機会が得られたことに心から感謝し、多くの感動を得たことを伝えてくれました。
 
 不確定な要素を抱えながら準備に追われたことなどこの87歳でご活躍のFenn先生のご講演を拝聴できた感動と感銘を受講した学生さんと共有できたことで吹っ飛びました。
 
 講演会をご許可いただいた理工学部宗像惠学部長、ならびに多くの事務職員の方々のご協力をいただき、無事終了しました。文末ではありますが付記してお礼を申し上げます。
  
 この機会をあたえて頂いたTMS研究会および会場の準備と運営を手伝ってくれた理工学部理学科物理化学研究室の大学院のPD、DC、MC、学部4年生の20名の研究員・学生諸氏、神山匡助手に感謝いたします。
 
 Fenn先生の科学の啓蒙活動の偉大さに感銘し、その成功を確信するとともに今後のますますのご活躍とご健康をお祈りいたします。

(近畿大学大学新聞 第450号 2面 平成16年10月1日発行)
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